Centone プログラムと解説

クラシックを聴こう! 7周年記念コンサート
2019年(令和元年) 6月20日

Centone――ヴァイオリン、歌、ギターで紡ぐ愛と祈り

出演:横山奈加子 (Vn.) / 岡田愛 (Sop.) / 河野智美 (G)

プログラム

Part I. Cantabile

  1. Ombra mai fù(オンブラ・マイ・フ)
    Händel, Georg Friedrich (1685-1759)
  2. Selve amiche
    Caldara, Antonio (1671-1736)
  3. Cantabile In D, Op. 17, MS 109(カンタービレ)
  4. Sonata Concertata, MS 2(ソナタ・コンチェルタータ)
    (1) Allegro Spiritoso
    (2) Adagio, Assai Espressivo
    (3) Rondeau
  5. 24 Caprices, Op.1, MS 25, No.24(24のカプリースより第34番)
  6. Romance  from Grand Sonate In A, MS 3(ロマンス:グランドソナタ第二楽章)
  7. Moto Perpetuo, Op.11, MS 72(無窮動)

Part II. Eine Blume

  1. Ave Maria by Gounod
    Bach, Johann Sebastian (1685-1750) / Gounod, Charles François (1818-1893)
  2. Ave Maria by Vavilov (Caccini)
    Vavilov, Vladimir Fiodorovich (1925-1973)
  3. Intermezzo(間奏曲) from Cavalleria Rusticana
    Mascagni, Pietro (1863-1945)
  4. Quia respexit (Magnificat in D major, BWV 243, No.3)
    Bach, Johann Sebastian (1685-1750)
  5. Grave from Violin Sonata No. 2, 1. BWV 1003
    Bach, Johann Sebastian (1685-1750)
  6. Du bist wie eine Blume(ミルテの花:君は花のように)
    Schumann, Robert Alexander (1810-1856)
  7. Der Nußbaum(ミルテの花:くるみの木)
    Schumann, Robert Alexander (1810-1856)
  8. Recuerdos de la Alhambra(アルハンブラの想い出)
    Tárrega, Francisco (1852-1909)
  9. Měsíčku na nebi hlubokém(歌劇ルサルカ:月に寄せる歌)
    Dvořák, Antonin (1841-1904)

プログラムノート

[イタリア古典歌曲]
19世紀のイタリアの音楽学者A.パリゾッティが17、18世紀のオペラや宗教曲のアリアを編曲、編集した曲集《Ariaantiche(古典アリア集)》から、2曲演奏します。

Ombra mai fù ~かつて木陰は~/G.F.Händel(1685-1759)

Serse(歌劇《セルセ》)の一曲。近年は単独で演奏されることが多いですが、元は歌劇《セルセ》の第1幕でペルシャ王セルセ(クセルクセス)によって歌われるアリアでした。この曲はカストラート(去勢手術により変声期をなくすことで、ボーイ・ソプラノの声を保ち続けた男性歌手)のために作曲されたとのこと。ヘンデルの作品では主要な男性役は男装した女声、あるいはカストラートによって演奏されていました(O)。

Selve amiche ~親愛なる森よ~

La Costanza in amor vince l’inganno(牧歌劇《愛は偽りに打ち勝つ》)の一曲)
こちらの牧歌劇は、惹かれ合う青年ティルシ(実は王子)とクローリ(実は王女)の恋を、ティルシに片思いするシルヴィア(羊飼い)があの手この手で邪魔をするという話で、現代にも通じる恋物語(!?)。〈親愛なる森よ〉は、第1幕第1場の冒頭でシルヴィアがティルシを想って歌うアリアです。なお、A.カルダーラの作曲とされていましたが、パリゾッティが原典として使用した楽譜の他に2種類の楽譜が現存しており、それらが全く違う曲であったことが判明していて、謎も深い1曲です(O)。

[パガニーニ作品]
N. パガニーニのギターとの作品・超絶技巧曲でお楽しみください。

Cantabile

パガニーニ(1782-1840)はイタリアのジェノヴァ生まれのヴァイオリニストですが、ギター、ヴィオラ、作曲も手がけました。鋭い目つきに尖った鼻、病弱だったために痩せこけた容貌で取り憑かれたように超絶技巧を演奏する姿から、巷では 「悪魔に魂を売ってその技術を手に入れた」と囁かれていました。パガニーニが自身のために作曲したものの多くは技術を見せつけるものが殆どですが、親しみやすい歌心あるメロディーも特徴的で、このカンタービレは、イタリアの空気を思い起こさせるような、パガニーニの歌心を代表する曲と言えます(Y)。

Sonata Concertata

ヴァイオリンの奇才と言われたパガニーニ。1800年から1804年頃までヴァイオリニストとしての活動をほとんどせずに、ギター作品を多く作った時期がありました。ギター奏者であったとも言われるフィレンツェの貴婦人の寵愛を受け、その邸宅に住み込んでいたのだそうです。パガニーニ自身もかなりの腕前であったと言われるギターですが、100を超える独奏曲、そして40ほどのギター室内楽曲を残しているという事実は、ギター奏者の愛人がいたからという以上に、ギターに対する深い思い入れを感じさせます。彼のギター作品のほとんどに、ヴァイオリン独奏曲とはまた違う「心」を感じ取ることができ、穏やかな愛に満ちている印象を受けるのです。
1803年頃の作品と言われるソナタ・コンチェルタータ(協奏風ソナタ)はパガニーニのギター作品のなかでも数少ない、ギターとヴァイオリンの掛け合いが見事な作品で、最もよく演奏される曲のひとつです。この作品はヴェネツィアの貴婦人エミリア・ディ・ネグロに献呈されたと言われています(K)。

24 Capries Op.1, No.24

カプリースはカプリッチョとも呼ばれ、日本語では「奇想曲」「狂想曲」と訳されています(意味は「気まぐれ」)。この24のカプリースは1曲につき2, 3ページのものが多く、1つの曲につき1~3種類の特殊技法を用い、練習曲集のように書かれています。24番は、このカプリースの終わりを華やかに締めくくるに相応しい内容で、16小節ある主題を様々な特殊技法を用いて11回変奏します。高音で弾かれる変奏では悪魔がほくそ笑むような、左手を用いるピツィカートでは悪魔がいたずらしているような、幾重にも重なる重音では悪魔に取り憑かれたような雰囲気を感じて頂けたら、と思います(Y)。

ロマンス(グランド・ソナタより)

この作品も原曲はギターとヴァイオリンのために書かれたものですが、ヴァイオリンは僅かなオブリガードが入るのみで、ギターソロ曲としても成立するため、ギターソロで演奏される機会の方が多い作品です。パガニーニのギターとヴァイオリン作品のほとんどは、ヴァイオリンが主役でギターは伴奏程度のものが多いなか、ギターが主役のこの作品をなぜ作ったかについて、イタリアの名ギタリストであるレニャーニとの親交のなかでの逸話も残されていますが、定かではありません。その真意は興味深いものがあります。グランド・ソナタはパガニーニにしては珍しく古典的な3楽章形式をとり、どの楽章も素晴らしい。本日は第2楽章のロマンスのみを演奏いたします。この作品は心を打つ名曲としてギタリストに愛奏され続けています。作曲はやはり1803年頃とされています(K)。

Moto Perpetuo

原題のイタリア語 “Moto Perpetuo” を直訳すると「永久運動」となります。その名の通り、始めから終わりまで4頁に及ぶ楽譜は16分音符で埋め尽くされ、いっときも休むことなく、破綻する寸前まで盛り上がり突き進みます。今日は河野さんのギター伴奏で弾かせて頂きますが、ピアノ伴奏、オーケストラ伴奏バージョンもあり、24のカプリースと並んで奏者にとっては最もプレッシャー度の高い曲の一つです(Y)。

[アヴェ・マリア集]
「アヴェ・マリア」はラテン語で「めでたし、マリア」の意味で、カトリック教会の主要な祈祷文の一つ。受胎告知の際、大天使ガブリエルは「おめでとう、恵まれた方。主があなたとともにいます」(『ルカによる福音書』1章28節)とマリアを祝福しました。また、マリアが神の子イエスを授かったことを知ったエリザベツ(洗礼者ヨハネの母で、このときちょうど身ごもっていた)は「あなたは女の中の祝福された方。あなたの胎の実も祝福されています」(『ルカによる福音書』1章42節)とマリアを祝します。この2つの祝詞に、聖母マリアへの祈願(「罪人である私たちのためにお祈り下さい、今も、私たちの死の時も。アーメン」)が足されたものが「アヴェ・マリア」です。多くの作曲家によって作曲されてきたアヴェ・マリア。その中から3つのアヴェ・マリアを皆さまにお届けしたいと思います。

バッハとグノーのアヴェ・マリア

これはJ.S. バッハ作曲《平均律クラヴィーア曲集》第1巻の第1番〈プレリュード〉に、フランスの作曲家C. グノーが即興的に旋律を足したもので、それを聴いて感激した義父のP. ツィメルマンがピアノやヴァイオリンなどを使った編成で〈バッハの平均律による瞑想曲〉として楽譜を売り出しました。歌詞はあとから付けられたもので、当初グノーはA.d. ラマルティーヌによる短い詩を用いていましたが、知り合いからの助言により知名度の高いラテン語の祈り「アヴェ・マリア」のテキストを用いることに。なお、義父のツィメルマンはパリ音楽院で教えていた有名な作曲家およびピアニストで、彼の門下生にはG. ビゼーやC. フランクもいます(O)。

ヴァヴィロフのアヴェ・マリア

長年カッチーニの作曲として知られてきましたが、近年になってウラディミール・ヴァヴィロフの作曲であることが判明しています。ヴァヴィロフは旧ソ連の作曲家で、ギターやリュート奏者としても活躍しました。この曲の世界初録音は、オルガンとヴァヴィロフ自身が演奏するリュートによる伴奏で、《ルネサンスのリュート音楽》に収録されています(O)。

カヴァレリア・ルスティカーナのアヴェ・マリア

こちらのアヴェ・マリアはマスカーニ作曲の歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》の間奏曲に、マッツォーニがオリジナルの歌詞を付けたもの。苦しみの中であっても信仰心や希望を失わずにいられるように祈り、聖母マリアに慈悲を乞う内容となっています(O)。

[バッハ集]

Quia respexit ~主はこの端女にも目を留めて下さった~

Magnificat in D major, BWV 243, 《マニフィカト》作品243 より
もう1曲、聖母マリアの曲をご紹介したいと思います。アヴェ・マリアは聖母マリアへの祈りでしたが、こちらはマリアによる神への祈りです。アヴェ・マリアと同じく『ルカによる福音書』第1章46~55節をテキストとし、受胎告知直後にマリアが親戚のエリザベツを訪問する場面を描いた、マリアの讃歌と呼ばれる《マニフィカト》。マリアが、「主は、身分の低いこのはしために目を留めてくださいました。これから後、どの時代の人々も私を幸いな者と呼ぶでしょう。」と主を賛美するアリアを演奏します(O)。

Grave(Sonata No.2 for solo violin BWV 1003)

バッハが無伴奏ヴァイオリンのために書いた3つのソナタと3つのパルティータは大変有名ですが、それらは最も幸せに仕事に取り組めたケーテン時代に書かれました。イ短調で書かれた2つめのソナタの第1楽章にあたるグラーヴェは、1番目のソナタ第1楽章アダージョの雰囲気、構成ともに似ている部分も多く大変重々しい印象を与えます。しかし、音形などは1番のソナタよりも自由に往来するところから、重厚な中にも流麗で幅広い印象を与えます(Y)。

[シューマンの歌曲]

シューマンは最初から音楽の道を歩んでいたわけではなく、母親の勧めで大学では法律を学んでいました。しかし、すでに音楽の才能を開花させていたシューマンは音楽家との出会いにも恵まれ、音楽の世界に導かれていきます。そんなシューマンの音楽家になる決意を後押ししたのが、彼がフランクフルトで聴いたパガニーニの演奏会だったと言われています。

花嫁へのプレゼントとしてシューマンからクララへ贈られたのが歌曲集《ミルテの花》。表紙は美しい装飾とともにミルテの花輪が描かれ、「愛する花嫁に」という献辞が記されていました。義父との長く続いた闘いの末、ようやくクララと結婚することの叶ったシューマンの喜びと彼女への愛がいっぱいに詰まった歌曲集です。クララと結婚した1840年は“歌曲の年”と呼ばれており、歌曲集《ミルテの花》だけでなく、彼の全声楽作品の約半数を占める138曲もの歌曲を生み出しています。

Du bist wie eine Blume ~君は花のように~

Myrten Op.25 ―歌曲集《ミルテの花》作品25より
第24曲〈君は花のように〉は、愛する女性を花に喩えて、その優しさ、清らかさ、美しさをもはや信仰心に近い気持ちで慈しむ内容となっています。この曲はシューマンの全歌曲(ただし初期作品は除く)の中で彼の最初の作品でもあるとのこと。シューマン自身がそう語ったことを、のちにブラームスがクララに伝えています(O)。

Der Nußbaum ~くるみの木~

第3曲〈くるみの木〉は、まだ恋をしたことのない少女が、恋や将来出会うであろう素敵な人に思いを馳せて夢見心地になっている様子を、くるみの花や鳥たちが優しく見守っている歌。モーゼンの詩。この曲を指導して下さった、今年4月に亡くなられたイェルク・デームス先生に捧げたいと思います(O)。

アルハンブラの想い出(F.タレガ)

フランシスコ・タレガ(1852-1909)は、20世紀のクラシックギターを基礎付け、独奏楽器としてのギターに対して関心を広げるきっかけを作った人物と見なされています。まさに近代クラシックギター界のヴィルトゥオーゾであり、作曲家としても多くの名曲を遺していますが、そのなかでももっとも有名なのがアルハンブラの想い出です。4本の指を駆使するトレモロ奏法を使い、スペイン・グラナダの世界遺産であるアルハンブラ宮殿にある噴水の流れる様子を表していると言われます。イスラムの人たちにとって当時水は大変貴重なもので、その贅沢を味わうために宮殿のいたるところにゆっくりと流れ落ちる噴水を作り、楽しんだのだそうです。高弟のエミリオ・プジョールによると、この曲は当初「インボカシオン(祈願)」と題されていたそうです。タレガの想いはスペインの深い歴史への郷愁と平和への祈りだったのではないか、そんな気持ちにさせてくれる名曲です(K)。

Měsíčku na nebi hlubokém~月に寄せる歌~

Rusaluka ―歌劇《ルサルカ》より

この歌劇は人魚姫の物語。〈月に寄せる歌〉は人間の王子を好きになった水の精ルサルカが、切ない恋心や人間になりたい気持ちを月に歌うアリアです。自分の声と引き換えに人の姿になったルサルカは王子と両想いになりますが、口をきけないことが原因ですれ違い、そこへ王子を奪おうとする外国の王女も現れ、やがて心変わりをされてしまいます。王子の元を去ることとなったルサルカ。彼女が水の精に戻るには、王子を殺さなければなりません。しかし、まだ彼を愛していた彼女にそんなことができるはずもなく……。

一方ルサルカのいない日々を過ごしていた王子は、彼女への思いが日に日に増していき、まだ彼女を愛していることに気付きます。ルサルカを捜しさまよい、ようやく再会を果たす2人。彼はルサルカに思いの丈を伝え、ルサルカもまた「あなたを本当に愛していた」と告白します。王子はここで初めてルサルカの声を聴くことに……。2人が口づけを交わすことは王子の死を意味しましたが、「死んでもいい、死ぬ瞬間まですべてをあなたに捧げたい、わたしの罪を償おう」と王子は彼女に口づけを求めます。ルサルカは愛する人の口づけを受け、2人は共に湖水に姿を消していったのでした(O)。